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季節性コロナウイルス感染症は冬に流行する

更新情報

2020.12.28
「3. なぜ、季節性コロナウイルス感染症は冬に流行するのか?」の内容を更新しました、② 昨今の新型コロナウイルス感染拡大を受け、「4. 新型コロナウイルス感染症も冬に流行するのか?」に追記しました。
2020.8.19
本ページの公開を開始しました。

1. 季節性コロナウイルスとは?

みなさんは、2020年に世界的大流行を引き起こした新型コロナウイルス以外に、人に風邪を引き起こすコロナウイルス(以下、「季節性コロナウイルス」)が4種類いることをご存じでしょうか?それらウイルスは、ヒューマン コロナウイルス(Human Coronavirus; HCoV)-OC43、HCoV-NL63、HCoV-HKU1、HCoV-229Eと呼ばれており、古いものでは1960年代には発見されていて、既に人類と共存しています(下表)。

日本で発生しているコロナウイルス感染症の原因病原体
 種類  学術名  発見年  グループ
 新型コロナウイルス  SARS-CoV-2  2019年  ベータ
 季節性コロナウイルス     HCoV-OC43  1960年代  ベータ
 HCoV-229E  1960年代  アルファ
 HCoV-NL63  2004年  アルファ
 HCoV-HKU1  2005年  ベータ

新型コロナウイルス感染症は、無症状の方もいる一方、重症化したり亡くなってしまう方もいる恐ろしい感染症と認識されています。一方で、季節性コロナウイルス感染症は、発熱、鼻咽頭炎などの軽い症状が中心とされていますが、風邪のウイルスとして片付けられてしまうことが多く、これまであまり研究されてきませんでした。

2. 季節性コロナウイルス感染症が流行する季節を調べてみた

山形県衛生研究所(以下、「当所」)では、季節性コロナウイルスについて10年以上研究を続けてきており、この度「季節性コロナウイルス感染症はいつ流行するのか?」という疑問を解決するために、山形県の10年間(2010年1月~2019年12月)の季節性コロナウイルス感染症の患者発生状況を調査しました。

調査には、山形県山辺町(やまのべまち)にある山辺こどもクリニックにご協力いただきました。毎週、急性呼吸器感染症と診断された患者様から採取した呼吸器検体およそ15~25検体を当所に提供いただきました。それら検体について、季節性コロナウイルスだけが増えるPCRを実施し、検体中に季節性コロナウイルスがいるかどうかを調べました。

下の図は、10年間で調査した15歳以下9,122検体の季節性コロナウイルス検出結果です。4種の季節性コロナウイルスが検出されたのは、722検体(7.9%)でした。特に、図の一番上のTotal(4種のウイルスの合計)を見ていただくと季節性コロナウイルス感染症は冬に多そうだという印象を持っていただけると思います。


DOI https://doi.org/10.7883/yoken.JJID.2020.525(日本語の説明を追加)

季節的な傾向をわかりやすくするために、下の図に月ごとの結果を示しました。(a)の線グラフで、10年間の各月で800検体前後の検体を調べたことがわかると思います。(b)はそれら800検体前後の月ごとの検体のうち、4種の季節性コロナウイルスが検出された検体の検出率を示しました。12~4月にかけて検出率が高く、特に1~3月は15%を超える検体から季節性コロナウイルスが検出されていることがわかります。このことから、山形県では季節性コロナウイルス感染症が冬に流行していた点がおわかりいただけると思います。


DOI https://doi.org/10.7883/yoken.JJID.2020.525(日本語の説明を追加)

3. なぜ、季節性コロナウイルス感染症は冬に流行するのか?

2020年7月に公開されたアメリカの研究者たちによる研究(Biryukov J et al. mSphere. 2020;5:e00441-20.)において、新型コロナウイルスは高温多湿に弱いという結果が示されました。その結果を踏まえると、季節性コロナウイルスも高温多湿に弱いと考えられ、低温で乾燥しがちな冬は、季節性コロナウイルスが広がりやすい季節であろうと推測することができます。つまり、ウイルス側の特徴が季節性コロナウイルス感染症が冬に流行する要因の1つであると考えられます。

4. 新型コロナウイルス感染症も冬に流行するのか?

今回の私たちの研究結果からは、新型コロナウイルス感染症が冬に流行すると言うことはできません。しかし、季節性コロナウイルス感染症が冬に流行していたという事実から、新型コロナウイルス感染症も冬に流行してもおかしくないと予想することはできます。人間は、地球上で珍しく先を見越して準備をすることができる生物です。冬季の新型コロナウイルス感染症の流行を見据え、以下のような準備を進めておくことが有効な手立てになると考えられます。
  1. 日ごろから、新型コロナウイルスの感染リスクが高い地域・施設を把握しておき、利益が不利益を上回る場合を除いては、感染リスクが高い地域・施設を訪問しない。
  2. 家族が新型コロナウイルスに感染した際に、誰がどのような役割を担うかをあらかじめ決めておく。
  3. 会社で体調不良者が出た場合の消毒などの対応や人員配置をあらかじめシミュレーションしておく。

2020.12.28 追記
2020年11月以降、国内における新型コロナウイルス感染者数が増加傾向を示しています。


厚生労働省ホームページ(上図は2020年12月27日現在)

この流行状況や、一つ上の「3. なぜ、季節性コロナウイルス感染症は冬に流行するのか?」でもご紹介した新型コロナウイルスは高温多湿に弱い(≒低温・乾燥に強い)という研究結果、また、冬季はどうしても換気が難しくなるといった実生活上の問題点などを総合すると、新型コロナウイルスも季節性コロナウイルスと同様に冬に流行するだろうと考えることができます。では、「春になれば新型コロナウイルス感染症の流行はおさまるのか?」という疑問に対する答えは現時点ではわかりませんが、少なくとも、冬季は感染拡大を防ぐために、より一層の感染予防対策が求められると言えそうです。

なお、具体的な対策については、当所で公開している「COVID-19時空間三次元マップ(山形県版)」においても触れていますので、参考にしてください。


(立体地図の呼び出しに少し時間がかかります。ご了承ください。)

5. おわりに

今回、 山形県における10年間にわたる研究結果から、季節性コロナウイルス感染症が冬に流行する点をご紹介しました。本記事が、季節性コロナウイルス感染症や新型コロナウイルス感染症流行の予防に少しでも役立てば幸いです。

なお、本研究は、山形県衛生研究所・山辺こどもクリニック・山形大学大学院医学研究科感染症学講座の共同研究として実施され、2020年7月に国立感染症研究所発行の学術誌に受理されました。論文の詳細につきましては、以下をご参照ください。

Kenichi Komabayashi and Junji Seto et al. Seasonality of human coronavirus OC43, NL63, HKU1, and 229E infection in Yamagata, Japan, 2010–2019. Jpn J Infect Dis. 2020;73:394-397.

公開論文は、J-STAGEホームページからご確認いただけます。

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